介護施設におけるBCP(業務継続計画)のポイント

介護施設におけるBCPのポイント

介護施設のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、地震や水害などの自然災害や感染症が発生しても、利用者の安全を確保しつつ必要な介護サービスをできる限り中断せずに提供し、早期に業務を再開するための計画を指します 。

近年の大規模災害や新型コロナウイルス感染症への対応強化の観点から、2024年4月より全ての介護サービス事業所にBCP策定および内容の周知・定期的な研修実施が義務付けられました 。

以下では、(1) 地震・水害を想定した具体的なBCP対応手順、(2) 厚生労働省のBCP策定指針、(3) BCP計画書の例・雛形、(4) 職員研修・訓練の方法について順にまとめます。

目次

地震・水害を想定したBCP対策の具体的手順

厚生労働省のガイドラインでは、自然災害(地震・水害等)発生時のBCP対応フローチャートが示されており、平常時の備えから緊急時対応、外部連携、復旧までの流れを俯瞰できます。このフローチャートに沿って、介護施設は事前準備と発災時の対応を計画します。

特に避難計画、安否確認、ライフライン確保、連絡体制は重要な要素です。それぞれについて具体的手順を以下に解説します。


• 避難計画(発災前の備えと避難方法): あらかじめ災害時の避難方法と避難先を定め、職員と利用者に周知します。自治体のハザードマップを確認し、施設周辺の地震の揺れや津波・浸水リスクを把握しておきます。

建物の耐震性や立地条件を踏まえ、地震時は建物内の安全なエリアや屋外の一次避難場所を決め、洪水・水害時には浸水想定のない高台や他施設への避難ルートを確保します。

非常口や避難経路上の障害物を点検し、ベッドや家具の固定、ガラス飛散防止フィルム設置など安全対策も講じます 。災害発生時にはまず落下物や火災から利用者を保護し(地震時は「まず身を守る」行動)、状況に応じて速やかに避難誘導を行います。

特に洪水が予見される場合は自治体からの避難情報を注視し、早めの垂直避難(建物の上階へ移動)や施設外避難を検討します。夜間帯の避難や在宅高齢者の避難支援には地域住民や消防との協力が不可欠であるため、平時から近隣との連携体制を築いておくことも重要です。

• 安否確認(利用者・職員の安全確保): 大災害時には「利用者の安全を確保すること」が介護事業者の最大の役割であり 、まず施設内の全利用者・職員の無事を確認します。

地震直後や避難完了後に負傷者の有無をチェックし、けが人がいれば応急手当と必要に応じた救護搬送を行います。避難誘導班や救護班など役割分担を決めておくと混乱を防げます(例:施設長が総括指揮、職員Aは避難誘導、職員Bは救護担当など)。

安否確認は名簿を用いて一人ひとり確実に行い、利用者全員の所在と状態を把握します。また非常時には安否優先順位を決めておくことも有効です。

例えば要支援度やフロア位置に応じて誰を優先的に救助・確認するかを事前にリスト化し(様式例:「災害時利用者一覧表(安否確認優先順位)」など) 、迅速な対応に役立てます。

職員についても、勤務中以外の職員の安否確認手段(自宅が被災した職員の状況把握等)を定めておきます。

確認結果や被害状況は記録し、後続の支援要請や家族連絡に備えて共有します。
• ライフライン確保と物資・設備対応: 被災により停電・断水・ガス停止が発生した場合に備え、少なくとも3日分の食料・飲料水・生活物資を備蓄しておきます(一般に「発災直後の3日間を自力で乗り切れば外部支援が届く」とされ、初動3日間の備えが特に重要とされています )。

非常用発電機や蓄電池を用意し、停電時にはそれらで最低限の照明・医療機器・通信機器が使えるよう対策します。

ガイドラインでは「自家発電装置が無い場合、乾電池や手動式機器の準備、車のバッテリーや電気自動車を電源として活用することも有用」とされています。

ガス供給が止まる場合はカセットコンロやプロパンボンベ等の代替調理手段を確保します(都市ガスは復旧に長期間かかる可能性があり、カセットコンロでは大量調理が困難なため、非常食は火を使わずに食べられるもの中心に備蓄するなど工夫が必要とされています )。

断水時には「飲料水」と「生活用水」に分けて確保策・節約策を準備します 。非常用の飲料水は各居室にあらかじめ配備しておくと運搬の手間が省けます 。

トイレも断水や停電で使えなくなるため、簡易トイレ(ポータブルトイレや凝固剤付き排泄袋等)を備蓄し、災害発生直後に所定の場所に設置して利用者に案内します 。

周知が遅れると汚物が溢れて衛生問題が発生するため、速やかな対応が重要です 。使用済みオムツや排泄物を一時保管する衛生的なスペースも決めておきます 。

この他にも通信機器・情報システムの停止に備えて、重要データのバックアップや紙媒体での利用者情報の用意、予備の乾電池・充電池の確保なども盛り込みます。


• 連絡体制(通信・情報伝達手段の確保): 非常時に確実に連絡を取り合うための通信計画(連絡網)を策定します。

平時から職員や利用者家族の複数の連絡先(携帯・自宅電話、メール等)を把握し、どの手段が生きているか状況に応じて試みることができるようにします 。

停電で固定電話が不通の場合に備え、携帯電話・モバイルバッテリーや衛星電話・無線機など代替手段も検討します。

また職員には「緊急時携行カード」を持たせることが推奨されています。

このカードには非常時の行動基準(安全確保方法・避難方法・安否確認方法)、参集基準(どの程度の災害で出勤すべきか)、緊急連絡先(上司や同僚・関係機関の電話番号)等を記載し、いざというとき職員各自が参照できるようにします。

災害発生時には予め決めた連絡優先順位に従い、まず消防・役所等への緊急通報・被害報告を行った上で、職員間の安否確認と追加要員の招集、利用者家族への状況連絡を行います。

施設長不在時に備えて代理連絡責任者を決めておくことも重要です(統括責任者が不在の場合の代行者を事前指名)。これら通信手段の確立により、外部支援の要請や医療機関との連携、物資の提供依頼などを速やかに行えるようになります。

以上のように、平常時から「想定される最悪の事態をシミュレーションし、人命を守るために何を優先しどう動くか」を具体的に決めておくことがBCPでは重要です 。

特に介護施設では要介護高齢者の生命維持に直結する業務(食事・水分補給、排泄介助、投薬等)は災害時であっても休止できないため、最低限どの業務を継続し誰が担うかを決めておきます。

その上で、人員や物資が不足する中でも数日間乗り切り、外部支援が到着した後に円滑に復旧できるよう備えることが求められます。

厚生労働省のBCP策定指針・ガイドライン

厚生労働省は介護事業所向けにBCP策定のためのガイドラインを提示しており、令和2年12月に「自然災害発生時の業務継続ガイドライン」と「感染症発生時の業務継続ガイドライン」の2種類が公表されました (必要に応じて随時更新)。

これらは各施設が平時に準備すべき事項や災害発生時の対応をまとめた指針であり、2021年度の介護報酬改定によりBCP策定が事実上義務化されたことを受けて策定支援の目的で示されたものです 。ガイドラインの主なポイントは次のとおりです。


• BCP策定の意義と義務化: 介護サービスは利用者の生活に欠かせない社会インフラであり、災害や感染症下でもサービスを継続できる体制構築が不可欠と強調されています。

そのため「不測の事態が発生しても重要業務を止めない、または中断しても可能な限り短期間で復旧させるための方針・体制・手順」を定めたBCPを作成し、従業者へ周知し平時から研修・訓練を実施することが義務付けられました (2024年3月まで経過措置期間)。BCPは作成がゴールではなく実効性ある計画として運用されねばならないことが制度上も位置付けられています。

• 防災計画との違い: ガイドラインでは従来の消防計画・非常災害対策計画(防災計画)との違いも解説されています。防災計画が主に「人命救助や避難など緊急時の初動対応」に焦点を当てるのに対し、BCPは「その後も介護事業を継続すること」を見据えた総合計画です。

つまり、防災計画でまず人命を守った「その後」に、最低限のサービス提供を維持し地域にも貢献する視点を加えたものがBCPだとされています 。具体的には利用者の安全確保・サービス継続・職員の安全確保・地域支援といった観点を盛り込み、防災計画を発展させた包括的計画となっています。

• 介護事業者に求められる役割: ガイドラインではBCP策定・発動時における介護事業者の責務として、まず第一に「利用者の生命・身体を守ること(安全確保)」が挙げられます。

次に、可能な範囲でサービス提供を継続すること(利用者の生活機能を最低限維持する)、そして職員の安全にも配慮すること(長時間勤務やストレスによる健康被害を防ぐ)も重要な役割です。

さらに施設が無事な場合には地域の福祉避難所等として貢献することも期待されており、平時から地域との協力体制を築いておくよう求められています 。

• BCP作成のポイント: ガイドラインにはBCPを策定する際の具体的な着眼点が示されています。 まず基本方針を定め(例:「①入所者・利用者の安全確保」「②サービスの継続」「③職員の安全確保」等を明文化) 、平時の推進体制(BCP委員会や防災担当チームの編成)を構築します。

その上でリスクの把握として施設所在地のハザードマップや想定し得る災害種別を洗い出し 、「平常時の対応策」(建物・設備の耐震対策、非常用電源・備蓄品の整備、安否確認手段の準備など)と「緊急時の対応策」(初動対応手順、優先業務の選定、避難方法、連絡方法、職員招集手順など)を検討します。

各項目について平時に検討すべきことと災害発生時に実施すべきことの両面を盛り込み、感染症の場合と自然災害の場合で計画を別立てまたは一体的に作成します。

特に自然災害BCPでは通所サービス・訪問サービス固有の事項も記載すべきとされ、サービス形態ごとに留意点を追加検討します。

さらに職員不在時の代替要員の指定 、非常時に優先する業務と最低必要職員数の算出 、利用者情報や重要書類のバックアップ確保、他施設との支援協定締結(相互に避難受入れ・物資融通できるようにする)等もポイントとして挙げられています。

こうした観点を網羅的に検討し、自施設の状況に合わせたBCPを文章化することが求められます 。

• 計画の周知・訓練と見直し: BCPは作成して棚にしまっておくだけでは意味がなく、定期的な周知・訓練を通じて初めて実効性が担保されると指摘されています。

ガイドラインでは「危機発生時に迅速に行動できるよう、関係者に内容を周知し、平時から研修・訓練(シミュレーション)を行う必要がある。訓練で見つかった課題に対策を講じ計画に反映させ、定期的に見直すこと」が重要とされています。

策定したBCPは全職員に共有し、年に複数回の訓練で手順を体得させ、訓練や実際の災害対応の振り返りから計画を更新していくPDCAサイクルが推奨されています 。

BCP計画書の例(雛形・フォーマット)

介護施設向けのBCP計画書は、厚生労働省や各自治体が提供する雛形を活用して作成することができます。

厚生労働省のホームページでは「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)ひな形」が公開されており、自然災害編・感染症編それぞれで入所系、通所系、訪問系に対応したWord雛形がダウンロード可能です。

この雛形に沿って自施設の具体的対応を書き込めば、ひととおりのBCPが完成するようになっています。

雛形や実際の計画書の構成例として、以下のような項目が含まれます。


• 基本情報・表紙: 計画の名称(例:「業務継続計画(自然災害編)」)、施設名、所在地、作成日・改訂日、作成担当者などを明記します。計画策定に当たっての注意事項や前提条件もここに記載します。

• 基本方針: 災害時における施設の使命や優先目標を簡潔に示します。例として「①利用者の安全確保、②必要サービスの継続、③職員の安全確保」を三本柱とするケースが多く、平時からこの基本方針に則って備える旨を宣言します 。

• BCP推進体制: 平常時にBCP策定や防災対策を推進する組織体制を記載します。施設内にBCP委員会や防災対策委員会を設置している場合はそのメンバーや役割を示し、経営陣の関与や多部門横断で取組む姿勢を書くことで社内体制を明確化します 。非常時の統括責任者(施設長等)および代行者もここで定め、災害対策本部の設置要領なども記述します。

• リスクの分析・想定: 想定しうる自然災害や事故の種類を洗い出し、発生頻度や影響度を評価します。自治体公表のハザードマップを添付し、施設が直面し得る地震震度、津波浸水深、土砂災害警戒区域などのリスク情報を整理します 。例えば「震度6強の地震発生」「河川氾濫により床上浸水2m」等、施設に深刻な被害を及ぼしうるシナリオを複数設定し、その場合にどんな影響が出るか(建物被害、ライフライン停止、職員出勤困難など)を書き出します 。

• 平常時の備え(事前対策): 災害に備えて日頃から講じておく対策をまとめます。主な項目例:

• 建物・設備の安全対策: 耐震補強状況の確認、1981年以前建築なら耐震診断検討 。家具固定や転倒防止策、非常用消火器・発電機の点検配置、窓ガラスの飛散防止フィルム設置など 。

• 物資・備品の備蓄: 非常食・飲料水は最低3日分(可能なら1週間以上)を確保。簡易トイレ、乾電池、携帯充電器、医薬品、衛生用品(マスク・消毒液)などのリストを作成し定期補充。福祉車両の燃料も満タン維持。

• 非常時対応マニュアル類: 避難経路図や非常集合場所の掲示、非常持出品チェックリスト、安否確認方法の手順書を整備。これらは職員に配布し訓練で活用します。

• 関係機関との連携準備: 地元消防・警察・自治体担当部署や協力医療機関・他介護施設との緊急連絡先一覧を作成(平時に覚書を交わしお互い支援し合う協定を結んでおくと安心)。災害時の情報入手手段(防災行政無線、気象庁の緊急速報アプリ等)も確認。

• 従業員対応: 職員の安否確認フロー、非常招集手順を決め文書化。自宅が被災して出勤困難な職員への支援策や、優先して参集すべき職種・人数の目安も検討します(例:「夜勤者2名+早番3名はいかなる場合でも出勤を確保する」等)。
• 緊急時の対応手順: 災害発生から復旧までの具体的な行動手順を段階ごとに記載します。典型的なサブ項目は以下のとおりです:

  1. BCP発動基準 – どういった状況でBCPを発動(災害対策本部設置や非常招集を開始)するかを明確化します。例:「震度5強以上の地震」「避難指示発令時」「施設内に重大被害発生時」など複数基準を設定。
  2. 初動対応 – 発生直後にまず行うことを時系列で示します。例:「利用者の安全確保(頭上注意・避難誘導)→職員・利用者の負傷状況確認→119番通報→初期消火→避難完了報告→非常電源起動…」といった流れです。安否確認の方法や救急搬送が必要な基準もここに含めます 。
  3. 避難対応 – 建物内避難か建物外避難か、避難場所はどこか、移動経路や方法(車椅子利用者への対応など)を詳細に記します。避難開始・終了の判断基準も示し、家族への引き渡し手順(通所系サービスの場合)も定めます 。
  4. 情報伝達・連絡 – 誰がどこに何を連絡するかを網羅します。施設内の指示系統(例:施設長→各班長→職員の順に指示)、緊急連絡網の発動手順、対外的な報告先(消防・役所・関係事業所への被害連絡)などを書きます。電話以外の手段(FAXやインターネット、衛星携帯など)の利用手順も必要に応じて盛り込みます。
  5. 重要業務の継続 – 非常時下で継続すべきサービス内容を列挙し、担当者を割り当てます。例:「食事提供(調理○名/配膳○名)」「排泄介助(介護職○名)」「見守り・記録(看護職○名)」といった具合に、最低限維持すべきケア内容と人員を明示します 。また中断する業務(レクリエーション等)とその再開目安も決めます。
  6. 二次被害防止策 – 余震や再度の水害に備えた対応(ガス元栓の確認、避難場所の再点検等)や感染症流行下で災害が起きた場合のマスク着用・ゾーニング確保など、複合災害時の対応も触れます。
  7. 職員体制の維持 – 長期化する場合の交代要員計画や勤務シフト見直し、職員のメンタルケア方法(適宜休憩を取る、一人に責任集中させない等)も記載します 。統括者不在時の代替者指名や外部応援スタッフ受け入れ手順も書き込みます 。
  8. 記録・報告 – 災害対応の経過を記録する方法(災害対応記録簿の様式等)と、落ち着いた段階で関係機関へ被害状況を報告する手順を定めます。
    • 復旧・事業再開計画: 応急対応から復旧段階へ移行する際の手順を書きます。施設建物の被害状況調査を行い、安全が確認できれば利用者の居室への戻しを開始します(危険箇所があれば使用中止措置)。設備の復旧見通しを立て、業者や行政と連携して復旧工事や清掃・消毒を実施します。事業再開の優先順位(どのサービスから再開するか)や再開までの代替サービス提供策(他施設への一時受け入れ依頼等)も検討します。感染症の場合は休業期間の基準や終息判断の基準なども盛り込みます。
    • 付録・様式集: 計画本文の末尾には各種フォーマットを添付します。例として「対応フローチャート」(前述の災害対応の流れ図)、「ハザードマップ」 、「安否確認用名簿」、「非常連絡網表」、「非常持出品チェックリスト」、「備蓄品一覧」などです。厚労省雛形ではこれら様式がExcel等で提供されており、自施設の情報を入力して活用できます 。例えば様式例として「災害時利用者一覧表(安否確認優先順位)」 や「災害対応職員配置表」、「非常通信手段一覧」などが用意されています。実際のBCP運用時にすぐ参照・記入できるよう、紙で印刷してファイルに綴じておくと有効です。

なお、各自治体や業界団体も介護施設BCPの雛形や事例を公開しています。例えば北海道では「実際に介護施設が策定したBCPをもとに加工した記載例」が入所系・通所系・訪問系サービスごとに提示されており 、具体的な記載方法の参考になります。

自施設の規模・サービス内容に応じて、これら雛形や記載例をカスタマイズし、独自のBCPを完成させるとよいでしょう。

職員研修および訓練の実施方法

BCPは策定しただけでは不十分であり、全職員が計画内容を理解し実行できるよう定期的な研修・訓練を行うことが不可欠です 。研修・訓練の実施にあたって考慮すべきポイントを以下にまとめます。


• 実施頻度と計画: 厚労省のガイドラインでは「入所系施設は年2回以上、通所系・訪問系事業所は年1回以上」の研修・訓練実施が目安として示されています (感染症対応訓練も含む)。この頻度を最低ラインとして、計画的に訓練日程を組みます。災害想定訓練は季節や昼夜など様々な状況を想定し、例えば夏季の水害訓練と冬季の地震訓練、夜間想定の避難訓練など年間複数パターン計画すると実効性が高まります。


• 研修(座学)内容: 訓練の前後には必ず座学研修を行い、BCPの内容や災害対応知識を職員に教育します。研修ではBCPに定めた基本方針や役割分担、具体的手順を再確認し、過去の災害事例の教訓やガイドラインのポイントも共有します。資料としてハザードマップや避難経路図、非常持出品の現物などを示し、理解を深めます。また新入職員には入職時オリエンテーションでBCP概要を説明し、全員が常に共通認識を持てるようにします。


• 訓練の種類と方法: 実地訓練と机上訓練(シミュレーション)を組み合わせて実施します。机上訓練(テーブルトップ演習)では災害発生から対応完了までの想定シナリオを示し、職員が討議しながら対応手順をシミュレートします。関係職員が自席で手順書を見ながら行うことで計画の不備や抜け漏れを洗い出すことができます 。

一方、実地訓練では避難誘導や初期消火、非常通信の手順を実際に体を動かして訓練します。避難誘導訓練では想定時間内に全員を避難完了できるか、負傷者役への対応は適切かを検証します。停電想定訓練では非常用発電機や懐中電灯を実際に使い、暗所での誘導や非常電源への切り替え手順を試します。通信訓練では緊急連絡網に沿って職員間で電話・メール連絡をリレーし、どれくらいの時間で全員と連絡が取れるか確認します。

感染症想定訓練では防護具の着脱やゾーニング区画の設営を練習します。これら訓練は可能な限り実際の非常時と近い状況を再現し、参加者に緊張感をもって臨んでもらうことが大切です。


• 評価・改善(アフターフォロー): 訓練実施後は必ず振り返り(講評と反省会)を行い、計画や対応手順の改善点を洗い出します 。

例えば「避難に○分かかったのでもっと経路を増やす必要がある」「非常袋の中身で不足が判明した物がある」「安否確認に時間がかかったので通信手段を再検討する」など、参加者全員から意見を募ります。その上でBCPを改訂し、不備があれば手順書や備品リストに反映させます 。

このPDCAサイクル(計画→訓練→評価→改善)を継続することで、計画の実効性と職員の対応力が向上していきます。また訓練の記録(日時、参加者、想定シナリオ、所要時間、結果・所見)を残しておくことも重要です。記録は職員の意識付けになるほか、行政からBCP策定・訓練実施状況の確認があった際のエビデンスにもなります。


• 外部との連携訓練: 必要に応じて、地域の防災訓練や他施設との合同訓練にも参加します。自治体主催の総合防災訓練に介護施設として参画し、福祉避難所の設営運営訓練を経験したり、地元消防署と連携して救助訓練・応急手当講習を受けたりすることで、実際の災害時にスムーズに協力し合える関係を築けます 。特に夜間帯の避難や多数の要介護者の搬送には地域住民や消防団の助力が不可欠なので、日頃から顔の見える訓練を重ねておくと安心です。

以上のように、介護施設のBCPは平時の備え・計画策定から非常時の実行・訓練・改善まで一連のプロセスを包含するものです。厚生労働省のガイドラインや提供されている雛形 、各種公的機関の情報を積極的に活用し、自施設に最適化したBCPを策定・運用していくことが安全安心な介護サービス提供に不可欠となります。災害発生時に慌てず対応できるよう、日頃から「備えあれば憂いなし」の精神で取り組みましょう。

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